生命保険で借金を返済。マイホームを守ったパパの話。

不動産の仕事をしていると、お客様のいろいろな人生模様が見えてきます。

今日は、僕が出会ったなかで印象に強く残っているお客さんの話をします。

-Contents-
1.任意売却とは
2.人生模様が見える仕事
3.今でも忘れられないSさんの話
4.憔悴しきったSさん
5.最悪の結末

1.任意売却とは

借金の返済のためにマイホームを手放さなければならない。
本当は売りたくないんだけど売らざるをえない。

業界では、これを任意売却、略して「任売(にんばい)」といいます。

裁判所が強制的に不動産をオークションにかけ、その代金を債権者に分配することを「競売(けいばい・きょうばい)」といいますが、よくそれとの比較で使われます。

裁判所の手続きが始まってしまう前に、債務者(=家の持ち主)と債権者(=主に銀行や保証会社)が話し合い、不動産業者を通じて広く売却先をさがす。

売れたら、そこから仲介手数料や引越し費用などの経費を引いて、残りを借金の返済に回します。

2.人生模様が見える仕事

この業界に入って最初の10年は、まさにこの「任売」のお手伝いを専門でやっていました。

10年の間に300人くらいのお客さんを手伝いましたが、いやほんと、いろいろな人がいました。

家を売ろうにもゴミ屋敷で足の踏み場もなく断念したひと
契約書にハンコ押したあと行方不明になるひと
違法薬物で捕まり、出所してきて売却活動したけどまた逮捕されたひと

目の前で夫婦で取っ組み合いのケンカが始まったり。

いろいろな人の人生模様を見ることができ、良い経験をさせてもらいました。

3.今でも忘れられないSさんの話

そんなお客様の中でも、今でもたまに思い出すひとりの男性がいます。
Sさんとしましょう。

Sさんは小さな電気工事の会社を経営してました。
家族は奥さまと、当時高校生と中学生の娘さん2人。

経営が順調だったとき、都内の住宅地に鉄骨3階建ての、事務所兼自宅を建てました。
時代はバブル期だったので、土地含めて8000万円くらいかかったそうですが、Sさんはすべてキャッシュで払ったそうです。
それだけ儲かっていた、ということですね。

家を建ててからしばらくは商売も順調でしたが、10年経ったくらいから雲行きが怪しくなってきました。

そこで、取引銀行から運転資金を借りるため、自宅を担保に入れることにしました
担保があるのと無いのとでは、借りれる金額も金利の安さもぜんぜん違うからです。

しかしビジネスの先行きはまったく好転せず、Sさんは毎月の返済にも窮するように・・・

返済が半年ほど滞ったある日、銀行の担当者から連絡があり、聞きたくなかった言葉を告げられます。

「自宅を売って返済に回してください。
 それができないなら競売の手続を取ります」

Sさんは途方にくれました。
しかし、競売ではカッコ悪いと考え(男のダンディズムでしょうか)、とりあえず「任売」の選択肢をえらびました。

そこで、私が勤めていた会社がSさんに紹介され、私がSさんとの面談に臨みました。

4.憔悴しきったSさん

Sさんは憔悴しきっていました。
まだ現実を直視できず、なんとか家を守る方法はないか考えていたようです。
自分のことはともかく、妻と娘2人も路頭に迷うのは耐えられない。

売却の仲介を依頼するための書類を持参していたのですが、その日はSさんからサインを貰えませんでした。

2週間後、再度Sさんの元に伺いました。

まだ踏ん切りがついていない様子でした。
私はSさんに、何千万もの借金を返すには家を売るしか方法がないこと、自己破産という選択肢もあるが、破産するには家を手放す必要があること、などを、ていねいに説明しました。

しかし、けっきょくその日もサインはもらえませんでした。

銀行には経緯を説明しました。
粘り強く話し合いを続けていく、という方向に。

その後何度かSさんに電話しましたが不通の状態が続きます。

5.最悪の結末

10日ほど経ったある日、Sさんの家に行ってみると、警察車両が何台か自宅の前に泊まり、ただ事ではない様子でした。付近にいる警察官に聞いてみましたが部外者には教えてくれません

銀行の担当者にすぐ報告しました。
数日後連絡があり、Sさんが自室で首を吊って亡くなっていたそうです。

こんなときに備えてなのか、数年前からかなり手厚い生命保険に加入していたらしく、1億近い保険金が下りて借金を全て返すことができ、Sさんの残された家族の生活は守られました

私は複雑な、なんともやりきれない気持ちになりました。

おそらく衝動的に死を選んでしまったのだと思いますが、自分の説得が、Sさんの自死を誘発したのではないか。何か他に方法があったのではないか。

「任売」のお客様は、基本的に売却に対してネガティブな方が多いのですが、それでも売買が成立したらスッキリするのか、感謝してくださる方もたくさんいました。

そんな中でも、Sさんのように自分の命を差し出して家と家族の生活を守る・・・
人生いろいろと言いますが、こんな幕引きの仕方もあるのか、いろいろなことを思いました。

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ABOUTこの記事をかいた人

1977年 北海道釧路市出身。 大学進学から上京するも、25歳までは、バイトなどで稼いだお金で海外バックパッカー→またバイト・・という生活を続ける。 26歳のときに一念発起。 独学で宅地建物取引士(当時は主任者)の資格を取得し、不動産業界に飛び込む。 10年間、不動産売買の仲介をメインに活動。 その後は土地分譲や不動産コンサルティング、賃貸管理など、活動の幅を広げる。 現在は愛媛県に移住し、住宅産業の仕事に関わる。 資格は宅建のほか、公認不動産コンサルティングマスター、インテリアコーディネーター、二級FP技能士、賃貸不動産経営管理士など多数。 家族は妻と1男1女。趣味は旅行。